Comparative Genomics: Computational Challenges @ PSB2010 tutorial(presented by Bernard M.E. Moret)

PSB2010 の比較ゲノムチュートリアルのスライドを眺めました。
http://psb.stanford.edu/psb10/conference-materials/tutorials/compgen-slides.pdf

僕は,比較ゲノムは様々なトピックを含むとても幅広い分野であるように考えている。
スライドの前半部分では,その幅広い分野におけるトピックを整理し,それぞれのトピックの研究の進捗状況や課題を提示している。
後半部分では,ゲノムアラインメント,シンテニー領域の同定,ゲノム再編成シナリオの推定にフォーカスを絞り,より具体的に課題を提示している。

スライドを眺めていての感想は 3 点。

  • 比較ゲノム分野におけるトピックをこれだけ正確に網羅できている Moret 氏に敬服を覚えた。
  • もちろん僕と Moret 氏では,把握できている情報量に雲泥の差があるとは思うのだが,一方で,僕が感じていた比較ゲノムにおける課題と Moret 氏が挙げた課題は,多くのオーバーラップがあった。
    • 僕の考えはそこまで的外れではないのかもしれない(?)
  • 果たして比較ゲノムにおけるトピックを列挙することに意味はあるのだろうか?
    • 僕は,比較ゲノムにおける最大のテーマは,"ゲノムを比較する" アプローチから生物学的知見を得るための土台作り(DB の構築やソフトウェアの提供など)だと考えている。比較ゲノムは生物学の一端を担っているが,比較ゲノム分野自体が生物学的なテーマ(問)を内包するとは考えていない。ゲノムを比較することによって生物学的な問いの答えを導けるシーンは数多くあると信じているが,そのときのテーマは進化生物学,機能生物学,構造生物学,代謝工学,ゲノム医科学などの他分野のものであり,比較ゲノム分野はそれらのテーマを深化させるための手段を提供しているのだと考えている。
    • このような考えに基づくと,比較ゲノム分野と他分野の関係には言及しない状態で,比較ゲノム分野内のトピックを列挙することに対する疑問が湧いてくる。「比較ゲノム分野におけるトピックは,どのように他分野へ応用されるのか」。この視点を抜きにして,比較ゲノム分野を俯瞰したとしても,「比較ゲノム分野が何故生物学の一旦を担うのか」という本質部分を伝えることは不可能であるように感じた。

PSB の tutorial でこのような発表がなされるということは,比較ゲノムは独立した分野として市民権を得ていることを意味しているのかもしれない。
しかし,比較ゲノムは道具作りである,というのが僕の考えである。
果たして,道具を作るときに,考えるべきスペックだけを抽出してしまえば,道具の使用目的を忘れてしまっても良いものだろうか?
登山家がバーナーに求めているものは,火力だけではない。
斜面に置いたときの安定性や,風が強くても着火が楽にできることも,重要なスペックである。
使用用途が専門的になるほど,道具に求められているスペックは列挙することが難しくなり,使用目的と道具作りを切り離すことが難しくなる,というように考えている。
生命科学分野においてハイスループットデータを得やすい現在においては,一般的な道具を使うだけではインパクトに欠ける研究になりやすいのではないだろうか。
このような時代において,道具の専門性は重要なファクターとなり得るし,そうであるならば,使用目的を強く意識した道具作りが必要なのではないだろうか。