The Language of Life - Introduction

個の医療についての理解を深めるため,Francis Collins 氏著の The Language of Life を読み始めました。
ここでは,Introduction を読み,考えたことを取り上げます。
※注)要約ではありません。

  • 診断とゲノム情報
    • Charcot-Marie-Tooth 病などの希少疾患は,医学の教科書に載っているような重篤な場合は診断が可能であったが,より軽い症状の場合,診断されることなく見過ごされることが多かった。
    • 希少疾患の原因遺伝子が明らかになり,個々の遺伝子の変異を調べるような遺伝子検査は,診断の手助けとして有用であると認知されるようになった。しかし,個々の遺伝子の変異を調べるためには,それ以前にある特定の疾患に罹患しているのでは?という仮説まで辿り着く必要があった。
    • 個人のゲノム情報が利用可能になり,また疾患名と遺伝子変異を対応付ける Whole Genome Association Study (GWAS) の成果により,ゲノム情報からいくつもの疾患に対する罹患リスクを予測することが可能になりつつある。一般消費者を対象にしたこのようなサービスも始まっており,その代表例として,23andMe,deCODE,Navigenics が取り上げられ,比較されている。
  • 一般消費者が自身のゲノム情報を検査する意義

Many people, when first confronted with the chance for such foreknowledge, say, "I don't want to know; it's better to enjoy life than worry about future risks." They might agree with the blind seer Tiresias in Sophocle's play about Oedipus, who was doomed to see the future but to be unable to change it; Tiresias lamented that "it is but sorrow to be wise when wisdom profits not." But we are not as powerless as Tiresias. In many cases of predicting genetic risk, this kind of wisdom may well provide personal health benefits. As I experienced myself, learning your own DNA secrets can be the best strategy for protecting your health and your life.

将来の疾患に対する罹患リスクを把握することで,予防が可能である。
すなわち,一般的に "健康に良い習慣" を行おうとすると気をつけなければ行けない項目は多すぎてとても守る気になれないかもしれないが,特に 2 型糖尿病になるリスクが高いことを知ることができれば,食事とエクセサイズには気を付けよう,と思えるかもしれない。
これが生活習慣病とゲノム情報を対応付ける GWAS の意義でもあるのだろう。

  • ゲノム情報から Action に繋げるために必要なこと

This opportunity to empower each of us to practice better prevention and treatment is not just about DNA. Studies of the interaction between genetic and environmental risks are pinpointing critical parts of our health that derive from environmental variables. That will lead to a greater opportunity for you to monitor and adjust your environmental exposures to improve your chances of staying well or recovering from an illness.

疾患の原因は大きく,遺伝的要因(ゲノム情報)と環境要因(食習慣や喫煙など)の 2 つに分けられる。
これら 2 つの要因間の関連を解明することで,例えば,肺がんになるリスクだけを予測するのではなく,喫煙をしている場合のリスク,していない場合のリスクを個人ごとに予測することが可能になるかもしれない。
このように遺伝的要因と環境要因間の関連を解明することで,ゲノム情報から Action に,より繋げやすくなる。

  • 現在の研究の流行と社会的意義

GWAS のアウトプットは,遺伝的原因のカタログである,と考えている。例えば,糖尿病 2 型の遺伝的原因のリストを作って,それぞれの変異に対してリスクファクターと prevalence を推定する。リスクファクターは,その変異を持っていることでどの程度罹患率が上昇するかを表す指標である。prevalence は,その変異を持っている人は人口中にどの程度の頻度で存在するかを表す指標である。

GWAS のアウトプットから,疾患の分子メカニズムの解明,さらには創薬に繋げるのは,決して一筋縄ではない。分子メカニズムの解明はアカデミックな成果として認められやすく,カタログ作りは必ずしもそうではない。そのため,莫大なコストを投入した割にはアカデミックな成果が挙っていない,という批判もしばし目にする。

GWAS を進めている研究グループが実際にどう考えているかは分からないが,GWAS は分子メカニズムの解明にはやはり向いていないように感じられる。それよりも,カタログ作りは罹患リスクの予測に役立つという点において,社会的意義があるのだと考えたい。
では,GWAS のアウトプットであるカタログを社会的意義があるアウトプットに変換するためには,どのような努力が必要なのだろうか?

    • 23andMe などのサービスにおける予測範囲および予測精度は,必ずしも高くはない。罹患リスクを予測可能な疾患数は数十と限られている(NORD の発表では,6000 程度の希少疾患が存在する)し,23andMe,deCODE,Navigenics でそれぞれの予測結果が異なっている罹患リスクも少なくない。罹患リスクを予測することが社会的意義に結びつきやすい疾患は,予防に対するアクションが必要な疾患であり,すなわち,希少疾患と生活習慣病であるだろう。より多くの希少疾患に対して罹患リスクを予測できるようになるべきだし,生活習慣病に対してより正確に罹患リスクを予測できるようにもなるべきである。
    • 罹患リスクの予測からアクションへの誘導も,必要であろう。一般消費者が,罹患リスクの解釈を正しくできるとは限らないし,また,糖尿病 2 型のリスクが高いときにどのようなことを気を付ければ良いかは必ずしも自明ではない。罹患リスクを正しく解釈するためには,予測の根拠となっている研究を知る必要がある。また,罹患リスクが高いときの予防法は医師などの専門家によるカウンセリングが求められる。ひとつの解決策としては,Navigenics のように,検査とカウンセリングをセットにしてサービスを展開することにあると思う。案外,カウンセリングサービスだけを行うような事業も今後登場してくるかもしれない。
  • アカデミアに求められている研究とは?
    • 知識の統合。個別研究および GWAS の成果である遺伝型ー疾患名の対応付けに関する知識は,OMIM に蓄積されている。しかしながら,OMIM に蓄積されている対応付けのごく一部だけが,23andMe などのサービスに活かされている。その原因は,OMIM は主にテキストベースのデータベースであり,OMIM に蓄積されている知識の根拠を知るためには,論文を参照しなければならない。根拠をカテゴライズして,個人ゲノム情報と OMIM の知識をよりフレキシビリティを高く連動させれないものか。現状では,カタログ作り後の罹患リスクの予測は事業者が行っているが,ここまでアカデミアでカバーしてしまった方が望ましいのではないか。その方が,各サービスで結果が異なるという混乱は防げるであろう。
    • より多くの疾患をカバーするために。個人ゲノム情報と OMIM の連動が進めば,その時点での罹患率が予測可能な疾患を把握することができる。そうすれば,全疾患のどの程度をカバーできているかを把握することができる。このカバー率を向上させてゆくことも,非事業者の役割であろう。