Tumour evolution inferred by single-cell sequencing(Navin et al., Nature 2011)

1細胞シーケシングを用いて,がん組織の異質性を解明することを目的とした研究でした。

(概要)

腫瘍組織を microdissection したのち,flow-sorting で1細胞を抽出しています。この研究では2つの腫瘍組織を解析していますが,各組織につき,100細胞の解析をしています。細胞の gDNA を全ゲノム増幅(WGA; whole genome amplification)によって増幅し,GenomeAnalyzerIIx でシーケシング(1細胞あたり1レーン)しています。

1細胞あたり,GenomeAnalyzerIIx1レーンのシーケシングしかしていないことが肝です。そのため,1細胞あたりのリード量は,ゲノムの6%をカバーしているにすぎません。塩基レベルの異質性を解明することはもちろん不可能で,1細胞ごとのコピー数多型の異質性を解明することを試みています。

腫瘍組織における「集団構造」を解明することが,この論文のメインな結果です。この論文では,コピー数多型パターンに基づく系統樹を描くことによって,集団構造を明らかにしています。

Our findings are consistent with previous findings [17] using bulk DNA, which indicate that copy number profiles in primary tumours are highly similar to the metastases. Thus, the metastatic cells emerge from a main advanced expansion, and not from an earlier intermediate or a completely different subpopulation. This is consistent with recent deep-sequencing studies of primary–metastatic pairs, all indicating that metastatic cells arise late in tumour development [18,19].

これは,NGS登場後に見つかってきた,がんゲノム進化に対する新しい見方です。"metastatic cells arise late in tumour development" は,「転移腫瘍で新たに獲得されたゲノム変異は少なく,転移腫瘍で必要となるゲノム変異の大半は転移以前に獲得されたものである」という発見を指し示しています。


(がんゲノム進化のモデル)

1細胞シーケシングによって解明された集団構造によれば,がん細胞集団は3〜4の分集団から構成されており,各分集団は全く異なるコピー数多型パターンを示していました。このことから,ゲノムへ変異が蓄積され異なるコピー数多型パターンを示すようになるスピードよりも,クローン性増殖のスピードが早く急速に増殖することのできる細胞が,各分集団を形成した,という「punctuated clonal evolution」というがんゲノム進化のモデルを提案しています。